鬼が舞う 祭礼の島へ。
鬼を味方につけた島、佐渡。120の集落で受け継がれる「鬼太鼓」は、災厄を払い、豊年満作を祈る神事でありながら、その主役を担うのは神でも精霊でもなく、鬼。集落ごとに鬼太鼓の形は異なり、ひとつとして同じものはない。佐渡の人々は一年に一度の祭礼を心待ちにし、集落の家々を巡る鬼を万感の思いで歓迎する。鬼太鼓は、島の祈りであり、感謝であり、誇りなのだ。
忌むべきもの、払うべきものとして語られることの多い鬼が、この土地では不思議なことに、人の暮らしのすぐそばで、祭礼の一部として息づいている。かつて京より貴族や文化人たちが流されてきた佐渡。島外からの人や文化を拒絶するのではなく、迎え入れ、取り込み、受け継いできた懐の深さが、「鬼(=異質な存在)を味方につける」という形に結実したー。
佐渡は悠久の時の中で、独創的な生活文化を築き上げてきた。人々が誇りにしてきた歴史、ゆたかな自然や食、能や人形芝居などの芸能。江戸時代に日本全国から人々を集め、艶やかな夢を見せた佐渡金山。旅人もまた異質なもの。訪れた者はきっと、その懐の深さを感じることだろう。
島の繁栄を祈る鬼太鼓の音。暮らしを紡ぐ人々の声。大海原へ連なる波の調べ。佐渡の神秘性と多様性に触れ、永遠の音に耳を澄ませる。新潟みなとから日本海を渡ると、そこには鬼が舞う島がある。